Tさんのこと(その1)

Tさんのことを、忘れないうちに少しずつ書いておこう。
と言っても、もう、記憶の中のそれは、ほとんど都合がいいように改竄されてしまっているかもしれないのだけれども。

Tさんは、僕にとっては特別な人だ。彼の文章と出会わなければ、物書きの末席を汚そうなどとは考えもしなかったはず。
なんだか、不思議な文章だった。
いろいろなものが背後でうごめいてるのはわかるのだけれども、表面的には、実にすっきりと、ひょうひょうと、軽やかで、鋭かった。
こうした出会いが、人の行き方(生き方?)を変えることがあるんだ。

彼の本で印象的なのは、共著なのだが、購入するかどうかに、一ヶ月悩みぬいた。
当時すでに古本でプレミアがつき、3万円ぐらいしていたように思う。
神田の古本屋でそれを見かけ、欲しくてしょうがなくなった。
何度も足を運びながら、値段が災いして、決断できなかった。
いっそのこと誰か、買ってしまってくれないかなあとも思った。
けれどもそれは、売れずにショーケースのなかに残り続けていた。(つづく?)